なごみ通信

なごみ通信 第63号
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なごみ通信 第63号

神奈川 鎌倉
創作和菓子 手毬 :御園井裕子

出迎えは、季節の花一輪

鎌倉の街中、制服を着た修学旅行生が地図を片手に歩くのを横目に、小道へするりと山間いへ。賑わいの大通りとは裏腹に、急に神聖な空気に包まれました。背の高い木に囲まれた小道、苔むした石階段の寺社、竹垣の並ぶまっすぐな路地。樹が覆いかぶさってできたトンネルをくぐると、ふと明るい光が射してきます。そこがシェアギャラリー「たからの庭」。北鎌倉の山の谷間に、創作和菓子「手毬」さんのギャラリーがありました。

出迎えは、季節の花一輪。その先には、レンガの煙突、ポンプ式の井戸、ウッドチェアと木の枝に結んだブランコ、縁側のある小さなお家。山の木々と草花に守られて見える空間は、幼いころ読んだ絵本の世界に入り込んでしまったような錯覚を覚えました。

生菓子の作成は早さが命

光がやさしく入り込む古民家の窓の下。そこで和菓子作家の御園井裕子さんがリズムよく作業をしていました。均一に色付けした白あんをちぎっては量り、一列に並べ、順に手のひらを使ってまあるく形を整えます。

生菓子の作成は早さが命。少しでも手間取れば餡が乾き、なめらかな食感が失われてしまいます。きれいな色のやわらかな餡をころがす様子は粘土遊びを思い出させましたが、手さばきは見事職人のものでした。

御園井さんの使う主な道具は、ご自身の手。手のひら全体でこね、指の腹を使って二色をぼかし、上手にくるくると回しながら花や蝶をかたどります。まるで手と餡が一体となり、すいすいと上生菓子へと変わる魔法をみているように思えました。

人生を変えた和菓子の本

可愛らしい和菓子を生み出す御園井さんですが、昔は和菓子が好きでなかったと言います。けれどもある日出会った和菓子の本で、本当に美しいと思える上生菓子を見、心を揺さぶられ、真似して作るうちに和菓子の世界に足を踏み入れてしまったのだとか。「本物を食べて初めて、香りとか甘さとか、こんなに美味しいものなんだと思ったんです」と御園井さんは言います。美味しい和菓子とは長く縁がなかったと笑っていましたが、きっと風味にとびきりうるさい、和菓子作家にふさわしい感性をお持ちだったのだろうと思います。

小豆嫌いを乗り越えてしまうほど和菓子の美しさに惹かれ、五感全てを素材として日本の美しさを和菓子に込める御園井さん。きれいだなとご自身が感じるものを作っていたら、同じように感じる方がまわりにたくさん集まってくださるようになり、気がついたら生業になっていたと言います。

これからも、手のひらで、日本の感性が表現されていく

北鎌倉の地を拠点にしているのは縁もあってのことだそうですが、きっと人が集まってもなお清らかな山の空気が、御園井さんの思う日本の美しさと合致してのことなのでしょう。

季節ごとの風の薫り、花と蝶の愛らしい関係。葉先に留まる小さな命にまでも心を向けて、これからも御園井さんの手のひらで、日本の感性が表現されていきます。

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