なごみ通信

なごみ通信 第67号
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なごみ通信 第67号

京都 伏見区
椿堂茶舗五代目 茶師 :武村龍男

ほっと肩の力が抜ける瞬間を作ってくれるお茶

京都、伏見。その中でも生活色の濃い街に、風情あるのれんのお店がひとつ。お茶を扱う、椿堂さんのお店です。店外までお茶の香ばしい匂いをただよわせ、この香りを胸いっぱいに吸い込みながら生活する人々の日常は、なんて豊かなのだろうと少し羨ましくなりました。

五代目亭主の武村龍男さんは、煎茶道を広めるため、様々な取り組みをなさっています。お店の奥、石畳の先の茶房『竹聲』はその一つ。武村さんが大きなてのひらで大切に入れてくださったお茶は、ほっと肩の力が抜ける瞬間を作ってくださいます。

生活に根ざした「文化」のところは、そうそう変わるものではない

椿堂さんは、明治12年の頃にはお茶の生産農家だったという記録が残っており、130年余りたった今も同じようにお茶と近しくいられることに、誇りと信念を持っていらっしゃる様子でした。

ひと仕事終えたあとにお茶を入れて、誰かと小休止をとるという光景は、すでに日常的ではなく、ノスタルジックな気持ちすら抱きます。お茶が生活必需品のひとつだった時代と比べると、時間や情報の速さ、ライフスタイルなどが大きく変わりました。

広い通りに出ればコンビニやファミリーレストラン、大型スーパーなどが並び、どこの地方でも画一的で似たような光景に出くわす時代です。けれども人の生活は地域ごとにまったく違っていて、人と少し向き合うだけでもそれがみえてくると、武村さんは言います。一見すると変わったように見えても、生活に根ざした「文化」のところは、そうそう変わるものではないと。

繰り返しひとつの茶葉と向き合うことで見えてくるのは、その葉の育った環境や本性

お茶は、何煎かお湯をさして、味の変化を楽しむものだそうです。一煎目はあまく、二煎目にはぴりりと葉の素性を、三煎目には土の香りを。

繰り返しひとつの茶葉と向き合うことで見えてくるのは、その葉の育った環境や本性なのだそうです。人と同じだと、武村さんは言います。

「最初に会うときはお化粧したりして、小綺麗にしてます。けれども二回、三回と様子を伺ううちに、その人の性格や両親の感じまでわかってしまうことがありますよね。人もお茶も同じです」。

変化をも楽しむお煎茶は、急須から注ぐごとに宝箱を開けてみるような遊び心をくすぐってくれるのかもしれません。

お茶は生命活動の一部なのではないかと気づいた

中国に留学中、水の代わりにお茶を飲んでいる人々を見て、お茶は生命活動の一部なのではないかと気づいたそうです。石灰の多い水を沸かし、濾過するかわりにお茶にし、水分を摂る。それを何百年何千年と繰り返しながら、お茶は人の体に馴染んできました。

人にとってお茶とは、そんな密接な関係を持って時代を下ってきた存在。だからこそ、武村さんは、せわしない現代に「心を癒すお茶」をお出ししたいと思ってくださっています。

お点前をしながら大切に包むのは、お客様の心

時計の音、木の葉の揺れる音、お茶からのぼりたつ湯気と対峙する人との対話。少しの非日常が、乾いた感性をウルをしてくれるような気がします。

お煎茶の茶器は、なにもかも小ぶりで、愛らしいものばかり。その小さな器を、武村さんの大きなてのひらが大切に包み込み、一杯のお茶が入ります。その安心感すら心地よく、お点前の時間はまさに癒しの時間です。

中国ではてのひらのことを「手心」と書くのだとか。お点前をしながら武村さんが大切に包むのは、お客様の心なのかもしれません。

京都 伏見区
椿堂茶舗五代目 茶師
武村龍男