なごみ通信 第73号
今もなお受け継がれている、雪国ならではの手仕事
奥会津・三島町。山間に集落が点在するこの町では、雪国ならではの手仕事が、今もなお受け継がれています。
その一つが「桐」。三島町は、着物の保管に欠かせない「桐たんす」の数少ない産地です。正確無比な技術と、質の高い材料で、重要文化財の保存箱なども手がけています。
桐の箱は湿気を吸うと膨張し、気密性を高め、内部へ湿気が侵入するのを防ぎます。火事などの非常時においても、火が中まで回るのを防ぐのだとか。日本という気候の変化の激しい土地において、保存・保管に最も適した素材です。
その気密性を充分に発揮するためには、第一に、木目の整った素材が必要です。農作物のように、まめに手を入れながら、まっすぐ伸びる桐の木を育てていきます。また、柔らかい性質の桐の木は、山に住む動物にとって雪深い冬の貴重な食料でもあります。たんすや箱の材料とするためには、冬の間も目が離せないのだそうです。
「手間はかかるけれど、日本の気候に合うのは、やはり日本で育った桐」。そう言って、桐の生産から加工まで、全てを一手に担っています。
便利な薬品や工具が開発されても、昔ながらのものが最も日本の風土に適応する、という信念のもと、糊や金属釘を使わずにたんすを組みます。それによって、木の膨張にも無理がなくなり劣化が少なく、かつ50年・100年経ったとしても削り直しで生まれ変わらせることができるのです。
環境に優しい桐たんすは、人にも優しい設計
保管という時間の流れに抗う行為が、桐がありのまま呼吸をすることで実現できるなんて、ちょっと不思議な心地がします。しかし三島の職人は、桐の力を信じているから、たんすに対しても自然のままにしておきます。たんすの劣化を防ぐために表面に薬品を塗ったり、強固にするため金属釘を挟んだり、そういった不自然な要素が、かえって桐の性質を損ねてしまうのです。
環境に優しい桐たんすは、人にも優しい設計です。現代の生活様式と調和するデザイン。重い絹織物の出し入れが簡単になるような工夫。
伝統は残しながらも、人と共に在るように、試行錯誤も重ねています。
最近では、桐たんすの気密性を応用した茶筒も開発されました。桐の軽さを生かした家具なども。素材と技術を発揮して、日本で新しい役割を全うできないか、日々模索しているところです。
子育てと同じペースで見守ってきた桐の木
その昔、「娘が生まれたら、嫁入り仕度のために植える」とされてきた桐の木。嫁入りまでの期間、桐の木にも目をかけ、手をかけ、子育てと同じペースで見守ってきたのだと思います。その習慣が薄れ、若者が都市部へ移住しつづける世の中になった今、三島町では、新成人に桐のフォトフレームを送っています。
時間が経っても劣化することのない大切な思い出
「山で育った大人が、子と桐の木を育て、共に育ってきた桐で贈り物をする。その中身を飾るのは、時間が経っても劣化することのない大切な思い出です。かけがえのない宝物を三島の桐が守ってくれるということは、三島で育った子どもたちにとって、親の愛情のようにあたたかく感じられることでしょう。
その愛情を、木のぬくもりに添えて、全国の方にお届けしたい。三島では、今日も地道な手仕事が続いています。