なごみ通信

なごみ通信 80号
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福島 奥会津
編み組細工 :菅家藤一

籠の修理を担当したことがきっかけで編み組細工を知ることに

郡山から柳津を抜け、只見川流域を進むと豪雪地域を思わせる屋根勾配の急な家並みが点在し始めます。福島県大沼郡三島町。山々に抱かれた小さな集落「間方」に「奥会津編み組細工」の名匠「菅家藤一」さんを訪ねました。

冬には深い雪で閉ざされるこの地域では昔から山に自生する草木を材料に収穫や保存、運搬に使う生活用具を作り、受け継がれてきました。山ぶどう・マタタビ・ヒロロなどを材料に作られる生活工芸品は平成十五年、国の伝統的工芸品に指定されました。

年に一度この地区で開かれる「ふるさと会津工人まつり」は編み組細工を筆頭に木工・陶芸・ガラスなど手作りの産物を求めて今では世界中から二万人を超える人が集まります。

マタギとして山の恵みを頂きながら公務員職にあった菅家さんは「生活工芸館」で籠の修理を担当したことがきっかけで編み組細工を知ることになります。「壊れた部分を繕うことで籠としての強度と使いやすさ、そして美しさを研究することができたんだね」と当時を振り返ります。

熟練の手さばきは身体に刻まれた業の証のよう

自宅に工房を作り、山ぶどうの籠を中心に本格的な制作活動を始めたのは退職後の平成二十五年。籠制作に費やす季節から狩の季節へと菅家さんの一年は自然に抗う事なく緩やかに巡ります。

六月半ばからの二週間は一年分の材料採取のために山に入ります。子供の頃から山を遊び場としてきた菅家さんは山ぶどうがまだ細いうちにその資質(癖)を見極めて成長を待つと言います。一つの籠製作に必要な山ぶどうは乾燥した状態で三キロほど。コーヒー缶の太さのつる三本分にあたります。

まずは集めた材料の樹皮を乾燥させ一定の幅に細断していきます。ゴムに似た粘性の繊維を持つ日本産の山ぶどうの樹皮は、蔓性植物特有のねじれや反りなどの強い癖を持ち、太さや厚さも一定ではありません。皮の厚みを触覚だけで均等に削ぎ揃え、「ぶどうが暴れないように」と、樹皮に通る目に沿って数ミリの巾に細断してゆく熟練の手さばきは身体に刻まれた業の証のようです。美しい網目を出すための下準備こそ丁寧に時間をかけて整えることが大切なのだと口数少なく作業に打ち込む菅家さんの姿が語ります。

節くれた大きな手さえも道具の一部のように頼もしく思えるのは、扱う工具そのものが自分の手に合うよう工夫して作られたものであるからだと気づかされ、二・五ミリ、三ミリ、五ミリとその道具の精密さにもおもわずため息がこぼれます。細い幅で編むことでより柔らかくて壊れづらい籠になることを菅家さんは修理の経験から学びました。

使い手の想いに少しでも寄り添いたいという誠実さ

一度乾燥させた山ぶどうの皮に二、三時間水を含ませてから編み込み作業は始まります。仕上がり時の網目の締まり具合を計算しながらの水加減はまさに熟練の経験によるものです。籠細工の名工と呼ばれるようになった今も「二本とび網代・矢筈縁巻き」など基本となる国指定の技法をきちんと守り続けている菅家さん。そんな菅家さんのこだわりは隙間なく整えられた網目の細かさと楕円形の底型、そして八本巻きの持ち手です。角のない底は当たりが少なく強度が増し、八本で編み込まれた持ち手も修理の依頼がないほどです。縦糸・横糸・縁糸と部位を見極めての使い分けも編みあがりの美しさにつながります。

仕上げの籠の内貼りは奥様、欣子さんが担当します。「調った編み目の裏を見て欲しいから布は貼りたく無いけどな、」と欣子さん。それでも、使い手の要望があれば色落ちしないようにと柿渋染の布を調達しています。

工房の棚にずらりと並んだ大小さまざまな木型は菅家さんの好奇心と探究心の表れであり、使い手の想いに少しでも寄り添いたいという誠実さのようにも思えます。

材料の山ぶどうは減ってはいないのですか?
との問いかけに「山は深いからな・・・」と一言つぶやいた菅家さん。

日常に使われ生活とともにある「用の美」

人智を超えた自然の雄大さ・悠久さに怖れと謙虚さで向き合う山びとの慎ましさ。

数ある編み組細工の中でも山ぶどうの籠が多くの人を引きつけてやまないのは持つ人の手によって育つと言われている色艶の美しさです。作りたての籠は、樹皮の堅い乾いた感じが残っています。化学的には山ぶどうの樹皮に含まれるポリフェノールなどの成分の酸化が色の変化を生み出すと言われています。そこに皮脂が加わることでアメ色のような光沢が生まれ皮のような艶へと変化していくのです。

籠は使うほど育ち、使い手はそれを慈しみながら楽しみます。厳しい自然によってもたらされる尊い恵みを人の手が時間をかけて形にし、美しい産物が紡ぎ出される。そしてその使い手が長い年月をかけてさらに豊かな表情へと仕上げていく。

機能性と美術的な美しさを併せ持つ工芸とは、日常に使われ生活とともにある「用の美」であることを丁寧に作り出された菅家さんの美しい籠が教えてくれます。

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